俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
「やる気のないお飾り秘書なら、優しくしてやる義理なんてないけどね。働く意欲があるなら普通の接し方をするわ。ましてや、篠原さんが気に入ったっていうならなおさら」

ひょいっと肩を竦めて立ち去ろうとする。

「あの、田上さん」

とっさに呼び止めると、彼女は片目分だけ私の方へ振り返った。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

大きく頭を下げたあと再び視線を戻すと、私へ背中を向ける直前、わずかに微笑んでいるのが見えた。

「よろしく」

シンプルなひと言だけ添えて、颯爽とパウダールームを出ていく。

本当は嫌われたっておかしくはないはずだ。大河を挟んだ私たちの関係は、手放しで仲良くなれるようなものではない。
けれど、仕事は仕事として割り切ってくれる、そんな恭子さんの冷静さと正しさに感謝した。

恭子さんも篠原さんも、経験も実績もない、ただ努力することしかできない私のことを応援してくれる。
私は恵まれているのかもしれない。新しい仕事で、初めての現場で、頼れる人がふたりもできたのだから。
この先、頑張ろうという勇気が湧き上がってくる。

背中を押してくれる人たちの期待に精一杯答えようと固く誓い、私はパウダールームを後にした。
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