俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
「恭子さん……?」

目を逸らした彼女は見るからにうろたえていて、唇を震わせながら、なんとかといった感じで口を開いた。

「……ごめんなさい」

「え?」

「昨日、あなたのいない間に、家に入れてもらったの」

一瞬、言葉に詰まってしまった。
どういう意味で言っているのかがわからず、切り返すことができない。

「やましい気持ちできたわけじゃなくて、この家にある私の荷物を取りにきただけだったの……最初は……」

「……最初は?」

「……途中で、少し取り乱してしまって……彼と……その……」

この先を説明する前に、恭子さんの瞳にじんわりと涙が浮かんでくる。

「ごめんなさい……私、まだ、大河のことが……だから……」

とうとう耐え切れず、両手で顔を覆いつくす。
嗚咽こそ漏らさないものの、定期的に跳ね上がる肩が泣いていることを表していた。

ふたりの間で、いったいなにがあったのだろう。
……怖くて、とても考えられなかった。

「ごめんなさい。もうひと部屋、探させてもらっていい?」

そう許可を取った彼女が、躊躇いながら踏み込んだのは――大河の部屋。

入口でぐるりと床を見渡すと、あきらめたように肩を落とした。

「ありがとう、もういいわ。今までのこと、大河には黙っててくれる?」

「……どうしてですか」

「これ以上、未練たらしい女だなんて思われたくないもの」

涙を拭い無理に笑って、恭子さんはとぼとぼと部屋を出る。「本当にごめんなさい。邪魔したわ」顔を上げぬまま独りごとのように呟いて、玄関を出て行ってしまった。
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