俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
「このピアス。俺があげたんだ。恭子が仕事で落ち込んでいるときに。君は、会社にとっても、俺にとっても必要だと言って……」

ズキン、と胸が痛んだ。
会社にとって恭子さんが必要なのは考えるまでもない。
けれど、大河にとって必要なのは、昔の話? それとも――今も?

「ピアス失くしたくらいで泣くなんて、バカだな……」

そう吐露した彼の顔は、「バカだな」なんて思っているような顔ではなかった。
手のひらの中にあるピアスを愛おしそうに見つめながら、きっとその視線の先には恭子さんがいるんだろうなんて、鈍い私ですら気がついた。

ねぇ、大河。
今抱いているその感情は――。

「……ごめん。行ってくる」

ピアスに視線を落としたまま、大河はその場で大きく踵を返した。
行かないでと必死に訴える私の顔には気づかぬまま――ううん、気づいてくれたところで、もう答えてはくれないだろう。

彼は、私ではなく、恭子さんを選ぶと決めたんだ。

背中が遠ざかるにつれて、彼と紡いできたたくさんの物語が過去の思い出へと変わっていく。

初めて訪れたこの家で「守ってやる」と抱きしめてくれたこと、「俺にとって莉依は特別だ」と口づけをくれた試着室、「愛している」と囁かれたベッドの上。

エンドロールのように頭の中を通りすぎては消えていって、彼の背中が扉の奥に見えなくなってしまったと同時に、残酷なほどくっきりと『FIN』の文字が浮かび上がった。

この物語の主人公は、私ではなかったみたいだ。大河と恭子さんのラブストーリーを盛り上げるための脇役にしかなれなかった。

映画によくありがちなエンドロール後の大逆転も――この場合期待できなそうだ。
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