俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
「私がいない間に、勝手になにしようとしてたの……?」

「ごめんね、莉依ちゃん。お父さん、業を煮やしちゃって」

列の一番うしろからやってきた着物姿の母が、私の問いかけに答えてくれた。
あの着物は確か、おばあちゃんから譲り受けた、百万超えの西陣織。
私の結婚式のときに着ると言って大切にしまい込んでいたものをちゃっかり出してきている。

「ごめん、姉ちゃん。俺も止めたんだけど、お父さんこうなっちゃうと聞かなくて」

申し訳なさそうに私の肩を叩く莉生。謝るわりに全員のりのりで正装しているのはなんなんだ。

「待ってよ、お父さん……」

呆然とする私を気にとめることなく、父はキッチンとは反対側にある、今はなにも置かれていない広々としたスペースに正座した。
昨日まであったはずのソファとローテーブルとテレビ台は、すでに撤去されている。

「莉依ちゃん。とりあえず落ち着きなさい」

私の肩をそっとさすってなだめる母。
母だけは私と一緒に最後までお見合いを反対してくれていたのに、今や完全に敵陣営だ。
この裏切者! とばかりに睨みつけると、そんな私に母はそっと耳打ちした。

「とりあえず、お父さんの気を落ち着かせるためにも、お見合いだけしてしまいなさい。そのあとで断ることだってできるんだから」

ね? と笑いかけてくれた母の顔を見て、少しだけ心が落ち着きを取り戻す。
そうだ。お見合いなんだから、断ることだってできるんだ。

「二階に、あなたの振袖を用意してあるの。袖を通すの久しぶりでしょう? 記念と思って着てみなさい。そうすればきっとお父さんの気も済むわ」

「でも……受けるつもりのないお見合いをするなんて」

「お見合いなんてそんなものよ。大丈夫、すぐに終わるわ……」

「……うん」

母に背中を押されて、私は渋々階段を昇り始めた。
母は父や陣内さんへ「ちょっと失礼」とにっこり愛想を振り撒いて、早く昇れとばかりに私のお尻をせっついた。
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