俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
ふと彼を見ると、キッチンで私に出すコーヒーを淹れながら、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「……だから嫌だったんだ。お前をここに連れて来るの」

「私がここに相応しくないから?」

「ちがうって、バカ」

ぶうたれた顔で大河は、コの字型のソファの中央に置かれたガラス製のローテーブルにコーヒーを置く。
このソファもただのソファではない、革張りの、十人くらい腰掛けられる大きなソファだ。

「俺はお前に金持ちアピールをしたいわけじゃないんだ。急に態度変えんなよ」

……そうだった。大河はいつだってお金持ちを鼻にかけることなんてしなかった。
いつも私と同じ目線で、同じようなものを買い、同じようなものを食べていた。
きっと私がこうなることを知っていたから、この家に呼んでくれなかったんだ。

でも……。

「それでも、考えちゃうよ」

部屋の中心でカーペットの上にしゃがみ込み、小さく丸くなって膝を抱えた。

「大河はここで、自分で選んだ彼女と愛のある結婚をして、なに不自由なく暮らすんでしょ。私はお父さんの決めた人と契約みたいな結婚して――」

情けないことにぼろぼろと涙がこぼれてきて、顔を埋めて隠すしかなくなってしまった。

「やめろよ」

大河の呆れたような声が聞こえるけれど、私の中の妄想はもう止めることができない。

「もしもこのまま就職できなかったら、毎日愛せるかどうかもわかんない人のためにご飯作って、言われるがままに子ども作って、このまま一生――」

「やめろって!!」

情けなくへたり込んだ私を、大河はすくいあげ強く抱きしめた。
涙で濡れて冷えた私の頬に、まるで体温を分け与えるかのように自分のをつけて温めてくれる。
きっと私の頬はびしゃっとしていて、気持ち悪いだろうに、大河はなんの躊躇もなく私を抱き留めてくれた。
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