俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
「無理だよ! こんな大量の資料、一日で覚えられるわけないじゃん!」
わかってはいたことだけれど、やっぱりできなくて、もう泣くしかなかった。
これでも必死に頑張ったのだ。休みもとらず机に向かって活字に食らいついた。こんなに勉強したのは大学受験以来だ。
それでも、資料の三分の一を理解するだけでやっとだった。暗記なんてレベルではない。
「まぁ、無理だろうなぁとは思ってたけど。これくらいは答えてほしかったな、わが社の収益と前年比。それから、競合他社の企業名トップ5とその順位」
資料をパラパラとめくりながら大河が嘆息する。
「言っておくけどな、莉依」
パン、と資料を閉じて、大河が私を見た。
「俺の頭には、これが全部入ってる」
全部……?
呆然として大河を見ると、その漆黒の瞳がわずかに細く、険しくなっていることに気がついて、背筋がぞくっとする。
自分の不甲斐なさに、なにも言い返せない。
「……とはいえ」
不意に、大河の大きな手が私の頭に置かれた。
ぽん、ぽん、と慰めるように頭の上でバウンドする。
「俺だって、一日で全部暗記したわけじゃない。これだけ読めただけでも十分だ」
ふわっ、ふわっ、と柔らかく大河の手が私の頭を撫で続けている。
顔を上げると、優しい笑顔が疲れて落ち込んだ私を迎えてくれた。
「お疲れ様、莉依。頑張ったな」
眩しい微笑みに甘い囁き声。緊張がほぐれ、凍りついていた心が一気に溶かされる。
「大河ぁ~……」
思わず胸がきゅぅっとなって、飛びつきたくなってしまった。
さっきの悪魔顔とは正反対の、天使のスマイル。
こんな飴とムチ見せられたら、もう文句のひとつも言えなくなってしまう。