優等生、中川君。





正人と、誰かが一緒に歩いていたのを思い出してしまった。


あの子は「今」の、彼女なんだね。



──最後に決めるのは、自分…



だね、中川君。

決めたよ。



…でも、



「…こころさん?」


「…あ、中川君。」


「鍵。」


「あ、はい。」


鍵を渡す。

受け止る手を見て、泣きそうになった。



「こころさん?」



「…ね、中川君…あたし、分かってたんだ。」


「……。」


「だけど、ね、どうしてだろう。覚悟はあったのに。恨む相手なのに…」

「……。」


「涙が出るんだぁ…」



気付けば、大量の涙。

恥ずかしくて、下を向いたけど

声の震えは止まらない。



「それはさ」


ギュルルンとバイクのエンジンをかけながら、中川君は言う。




「…一時でも、好きだったからだよ。」



当たり前じゃないかな、とヘルメットを被る。




あたし、最近知り合った人になにしてんだろ。


少し後悔して、あたしもバイクの後ろに乗る。





好きだったから、泣くんだ。


そっか、そうなんだ…。




あたしは正人を、少しでも、愛していた。




だから、決めたよ。




「中川君、やっぱり頭いいね。」


「え?なんて?聞こえない。」


「いや、なんでも。」


「え?」




家に着く頃には、涙は渇いていた。





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