優等生、中川君。
右を向く。
誰もいない。
左を向く。
あたしに、座ったままノートを突出している男の子がいる。
「へ、あたし…?」
「他に誰かいると思う?」
彼は冷静に、淡々と答えた。
「いや、あたししかいない…」
「うん。…ノートいらない?」
そう言いながら彼は、ノートを降ろそうとした。
「い、いや!いります!貸して…下さい…」
「どうぞ。」
そう言って彼は、そのまま前を向いて、本を読み始めた。
「えと、名前…」
彼はあたしをチラッとだけ見た。
そしてまた、本の方へ向く。
「………、中川 祐斗。覚えておいてね。こころさん。」
名前を呼ばれて、少しドキッとした。
「名前…」
あたしは少し目を開いて、中川君を見る。
相変わらず中川君は本を見ながら答える。
「隣りの席だしね。それに、君の元気な友達が毎朝大きな声で、君を呼んでるじゃないか。」
なるほど、と中川君に感心する。
「…そうだね。あ、ノートありがとう。昼休みには返すね。」
また本を読みながら、こくん。とうなずく。
本に、集中したいのかな。
取りあえずあたしも前に向き直して、ノートを写す。
中川君の字は、とてもキレイだった。