優等生、中川君。





右を向く。

誰もいない。



左を向く。


あたしに、座ったままノートを突出している男の子がいる。



「へ、あたし…?」



「他に誰かいると思う?」


彼は冷静に、淡々と答えた。


「いや、あたししかいない…」


「うん。…ノートいらない?」


そう言いながら彼は、ノートを降ろそうとした。


「い、いや!いります!貸して…下さい…」





「どうぞ。」



そう言って彼は、そのまま前を向いて、本を読み始めた。





「えと、名前…」





彼はあたしをチラッとだけ見た。

そしてまた、本の方へ向く。




「………、中川 祐斗。覚えておいてね。こころさん。」



名前を呼ばれて、少しドキッとした。



「名前…」


あたしは少し目を開いて、中川君を見る。


相変わらず中川君は本を見ながら答える。


「隣りの席だしね。それに、君の元気な友達が毎朝大きな声で、君を呼んでるじゃないか。」


なるほど、と中川君に感心する。



「…そうだね。あ、ノートありがとう。昼休みには返すね。」



また本を読みながら、こくん。とうなずく。



本に、集中したいのかな。


取りあえずあたしも前に向き直して、ノートを写す。




中川君の字は、とてもキレイだった。


< 9 / 43 >

この作品をシェア

pagetop