目の覚めるような赤だった
「たぶん、残り時間が短くなってる。相変わらずどういうシステムかわかんねーけど」

後半、迅は茶化して笑った。
私は笑える気分になんかなれない。今にも泣き出しそうな気持ちを奮いたたせ、唇を噛みしめているだけだ。

「俺は、近い未来いなくなるよ」

嫌だ。そんなの嫌。
大声でわめきたい。どうにかなるものでなくても、泣き叫びたい。
迅は、私のすべてだ。
私の世界そのものだ。
もう失いたくない。どんな姿でもいいから、ずっとずっと隣にいてほしい。

「二度も見送り任せちゃって悪いな」
「平気だよ」

大荒れの心の中と裏腹に、私はにこっと笑顔を作る。そして、あらためて迅の顔を見つめた。

「迅のこと見送れる。聖にも頼まれたしね、従妹として務めを果たすよ。迅、頼ってくれてありがとう」
「ん、そっか」
「いつになるかわかんないけど、後悔ないように暮らそう。また理由つけて戻ってこられても困るし。今度はまっすぐ天国へ行ってよ?」

私が強気に笑うと、迅が苦笑いで返す。

「おまえなぁ!ひとが善良な幽霊なのをいいことに言いたい放題かよ」

ふたりで顔を見合わせ笑った。ひとしきり笑うと、並んで空を見上げ風を浴びた。
迅の左手にはミサンガ。私はそれに触れた。ミサンガもはっきりとした触り心地はしない。すると、迅の左手が私の右手をつかまえた。

ふにゃりとした温度のない何かが私の手の甲を包んでいる。それが迅の左手であることが切なく、そしてこんなかたちでも、手を繋いでいることに狼狽した。勇気を出して、右手をひっくり返す。迅のてのひらと私のてのひらが合わさる。指と指が自然と組み合わされる。

「明日、ハギレで勘太郎のおもちゃ作るんだ」
「おお、いいじゃん。勘太郎のアレ、すげーぼろだもんな」
「中綿、買いに行きたいの。洗ってもへたりづらいやつ。明日、付き合って」
「お安い御用」

私たちは随分長いことそうして夜風を浴びていた。
繋いだ手の感触はやがてなくなっていた。


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