目の覚めるような赤だった
優衣が思い出したように言う。

「そう!卒業式の二日後には卒業旅行だからね!風邪とかひかないでよ?」
「それ、本当に私とふたりでいいの?」
「一泊二日で近場の温泉なんて渋い卒業旅行、真香とでなきゃ行かないっつうの」

高校の卒業旅行なんて、海外に行く子たちもいるのに、私と優衣が選んだのは箱根のごはんが美味しいと評判のお宿だ。ふたりで温泉三昧してごはんを食べて喋りまくろうって約束をしている。

「ま、卒業してもお互い実家から通うし、池袋あたりで待ち合わせて遊べそうだよね」
「うん、言われてみればそうだね。あ、私バイトしてみたいの。優衣、よければ一緒に働けるところ探さない?」
「いいねぇ!真香にしてはいい提案!」
「『真香にしては』ってなによ」

私たちはきゃっきゃと笑い合う。優衣からしてみれば、私は随分明るくなったように見えるんだろうな。から元気でもなく、こうして心から笑えるようになっているのは、時間という薬が確かに作用しているためだろう。

「卒業かぁ」

優衣が空を眺めた。

「高校生じゃなくなるなんて信じられない」
「本当にね」

だけど、私たちは来週には高校生でなくなり、あとたった2年で成人するのだ。大人になるって覚悟を決める暇もない気がする。

「今週末、旅行の買い物行く?」

優衣に問われ私は両手を顔の前で合わせた。

「ごめん。今週末はトシさんのところに行ってくるの」
「ああ、夏にお世話になったおばあちゃんね」
「そう、従弟の聖と。行くと文句言われるけど行かないと寂しがるから」
「めんどくさい人だねぇ」

バスがスピードを緩めてバス停に到着する。
乗り込む優衣を見送って、私は駅に向かって歩き出した。


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