chocolate mint

そう言って崎山先輩は「そうだ、これあげる」と鞄から何かを取り出して僕の手を取ると、手のひらにポンと置いた。


タブレットケースのような、黒いケースに入った何かをじっと見つめる。

「……ミント?」

ケースの表面にはMintと文字が書かれている。


「裕介くん、前にチョコミントが好きって言ってなかった?私もね、大好きなんだ。疲れた時に食べるといいよ。……他の後輩には内緒だからね。じゃあね」



『内緒だからね』の所だけ声を潜めて笑ったその笑顔が、普段の凛々しい表情と違って無邪気で可愛らしくて、先輩が手を振りながら去って行った後もしばらくその後ろ姿をぼんやりと眺めてしまっていた。



手の中にはチョコミントのタブレット。


ケースをスライドさせて、焦げ茶色の中身を一粒取り出して口に放り込んだ。


「…………甘っ」


最初甘かっただけのそれは、すぐにビターなチョコの味に変わって、最後に爽やかなミントの香りと共に口の中でほろりと溶けた。



たった一粒のタブレットを口に含んだだけで、今までの憂鬱な気持ちは一気に吹き飛んでしまった。



まるで胸の中に爽やかな風が吹いたようだった。
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