chocolate mint
さっきまでは嬉しかった。
今まで他人に見せなかった涙を、僕だけに見せてくれた事が。
だけど、これは僕を想って流した涙じゃない。菊井(アイツ)を想って流した涙だ。
純くんの時と同じように、ちゃんと恋がしたかったって、その後悔を想いを残したまま、また香織ちゃんは新しい恋を見つけるのだろうか。
僕はそれを……ただ見ている事しか出来ないんだろうか。
また何年も、ただ何もせずに側にいるだけで。
…………それだけは、もう嫌だ。
背中に回していた両手を頬に当てる。涙を拭うように後ろに滑らせて、そのまま涙に濡れた顔を引き寄せてそっと唇を重ねた。
最初触れるように落としたキスは、驚いて目を見開いている香織ちゃんに何も言わないでと願ううちに、言葉を飲み込むように、だんだんと深いものに変わっていった。
……僕は卑怯だ。
僕を否定する言葉を言えなくして、香織ちゃんが僕の手を、指だけを、たまに欲情混じりの視線で眺めている事をちゃんと知っていて、指を絡めて誘いの言葉を口にした。
「……おいでよ」
やっと恋が終わったこの状況で。
何も考えられない時に。
二人きりの家で、逃げ場が無くなるように指を絡めて繋ぎ止めて。
だけど、これは、僕にとって最後のチャンスだから。
香織ちゃんが、この手を振りほどかなかったなら……
もう、僕は引き返さない。