chocolate mint
高校を卒業して、僕は進学をせずに『Felitita』で働き始めた。
余談だけど、僕たちの通っていた高校は、ほぼ進学をする生徒ばかりだ。
「将来は、実家を継ぎたいので」と、大学に進まずに美容の専門学校へ行った紫ちゃんと、進学せずにカフェに就職した僕は、しばらく変わり者の姉弟として先生達の記憶に残る事になる。
そんな僕の就職だったけど、最初からマネージャー志望で採用された事もあって、和希さんのドSな人材育成に耐える日々が始まった。
働きながら調理師の免許を取らされたり、和希さんと志帆さんが友達だっていうだけの理由で、まだ奏一くんがパティシエとして勤めていなかった頃の『Milkyway』に人手が足りないと手伝いに行かされたり、その時に何故かパン作りまで覚えさせられたりして……
最終的にウェイターとしてホールに出るまでの下積みの何年間は、今思い出しても目が回りそうになるくらい忙しい日々だった。
だから先輩に対して抱いたモヤモヤとした胸の痛みなんて正直忘れていたし、それどころかまともに誰かと付き合う暇も無かった。
彼女はいた事もあったけど、忙しすぎて連絡を取る事すら億劫になって、そのうち「私と仕事、どっちが大事なの?!」なんてドラマなんかで散々聞いたセリフで振られる、というのがもはやお決まりのパターンと化していた。
そんなある日のこと。
その日は5月の連休の後半で、早番の後は休みのシフトだった。
連休に入った辺りから死ぬほど忙しかったから、久しぶりにまともに休める……そう思っていた僕の目の前に突然悪魔が現れた。