chocolate mint
その声と表情に、思わず息を飲む。
これまでも、この人の気の向くままに理不尽に殴られたり、蹴られたり、叩かれたり、張り倒されたり、捻られたり、突かれたり、つねられたり、デコピンされたり……してきたけど、
こんなに怒りに満ちた表情は見たことが……
……いや、まてよ。あるな。
紫ちゃんが、奏一くんの事が好きだってうっかり純くんにばらしちゃった小学生の時以来の怒りようだ。
目の前で、悪魔は静かに微笑んでいた。
……だけど笑っているのは口元だけで、目は一つも笑っていないのが本当に恐ろしい。
そんな目を見てしまったら、僕ができる選択は一つだけだ。
「……してない」
好きな人の前なのに、こんな風にしか振る舞えないなんて本当に情けない。
だけど、本気で怒っているこの人に『ああそうだよ!何するんだよ!って言おうとしてたよ!』……なんて、歯向かうような言葉は絶対に言えないんだ。
(不幸な事に)この人の弟として生まれてからの27年間、こんな時には逆らってもムダだって事を、僕は物心がつく前から細胞レベルで叩き込まれている。