chocolate mint

そのまま立ち去る事も出来ずに、暫くその様子を眺めていた。


それでも涙は止まらずに頬を濡らし続ける。


堪らなくなった僕は、とうとうリビングに踏み込んで、そっと手に持ったフェイスタオルで涙を受け止めてあげた。


ビクッと一瞬だけ肩を震わせて、先輩は真っ直ぐ僕の目を見つめた。


「もっと素直に気持ちを伝えれば良かった。昔も今も。……もう過去には戻れないし、綺麗な思い出にもできない。私ね、純くんにちゃんと恋がしたかったの」



それだけ言うと、握りしめたタオルを目に押し当てたまま、先輩はテーブルに突っ伏すように眠ってしまった。


目だけは悲しそうにしているくせに、顔は無表情で。


だから、涙を流してなかったらとても悲しんでいるようには見えなくて……


先輩は気が強いんじゃない。意地っ張りなだけだ。意地っ張りで、損ばかりしている人なんだと思う。


後輩みんなから『鬼』なんて言われてしまっても、全く気にしていないようにいつも明るく笑っていた。


奏一くんと純くんを好きだった子達から、色々と心ない悪口を言われたり、陰で意地悪をされた事もあったって紫ちゃんから聞いていた。


だけど、みんなは知ってるのかな?


この人がこんなにも傷つきやすくて、脆い人だって。
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