chocolate mint
引き継ぎを済ませて急いで着替えると、スマホの着信ランプがチカチカと点滅している事に気がついた。
……香織ちゃんかな。
約束の時間にも間に合わないかもしれないし、一旦連絡を入れたほうがいいかも。そう思ってスマホを見ると着信は紫ちゃんからだった。
はぁ、とため息をついて通話をタップする。
何度目かのコール音の後「もしもし」と出た紫ちゃんに、「待たせてごめん。今着替え終わったから」と伝えて急いで通話を終わらせて駐車場に向かおうとしたその時、
「ううん。こっちこそ待たせてごめん。あがり直前に飛び込みで私の指名のお客様が来てさー……。カットだけで助かったわ。今そっちに向かってるから」と言われた。
「……え?」
戸惑っているうちに、電話は切れてしまった。
ちょっと待てよ。
『今そっちに向かってる』って……
じゃあ、今僕の車で待っている人は誰なんだよ。
ゾクッと、寒気に似た気持ち悪さが身体を包み込む。
最悪の想像が頭を過った。
急いでホールへ行き、接客中の瀬尾を捕まえる。
こいつはマネージャー見習いだから、何年か前の僕と同じで最近ホールの接客を始めたばかりだ。