chocolate mint
他のスタッフに迷惑がかかるといけないから『彼女』の接客はいつも僕が担当していた。
だから、まだ仕事を覚えるだけが精一杯のこいつが……
常連客の顔まで目がいかないのも無理は無い。
「なぁ、瀬尾。さっき姉、何か言ってなかった?」
忙しい最中に呼び止められて、ちょっとだけ迷惑そうな顔をしながら瀬尾は答えた。
「いいえ。特に何も」
そのまま去っていこうとした瀬尾の肩を掴んでまた質問をする。
「なぁ、瀬尾はどうして姉が待ち合わせてるのが、僕だって分かったの?会った事ないよね?」
迷惑そうな表情は崩さなかったが、僕の勢いに驚いた様子で瀬尾は言葉を返した。
「店に来たら、通用口のそばに誰か立ってるのが見えたんですよ。で、誰かと待ち合わせかと思って声を掛けたら『大丈夫です』って言われたんだけど、雨も降ってきてたし心配で。でも、今の時間あがるのって葉山さんしかいないから、たぶん葉山さんの事待ってるんだろうなって思って。……それが、どうかしたんですか?」
「可愛らしいお姉さんですよねー」なんて続けた瀬尾の言葉は殆ど耳に入らなかった。
そのままスタッフルームへ飛び込み、鞄をひったくるように掴みながら通用口のドアを勢いよく開けると、ちょうど到着した紫ちゃんと出くわした。