chocolate mint
そして、この出来事が招いた不幸は、仕事だけに止まらなかった。
香織ちゃんを好きになってから、僕が香織ちゃんの誘いを断った事は無い。今回が初めてだ。
たったの一回。
その日に、香織ちゃんに彼氏が出来てしまったんだ。
「大学の時のね、友達に飲み会に誘われたんだ。裕介くんと先に約束してたし、純くんもいるかもしれないって思ったから一回は断ったんだけど……」
純くんはいないからと言われて、暇になったし行ってもいいかなーと軽い気持ちで参加したその飲み会の場で、ずっと友達として付き合ってきた同級生に突然告白をされたらしい。
「今まで全然意識した事が無い人だったから、凄く驚いちゃった」
「ほら、私ね、今まで自分から好きになって突っ走って行く恋しかしたことがなかったから……凄く嬉しかったの。私が好きになる前に、私の事を好きだって思ってくれている人がいるなんて思わなかったから」
…………目の前にいるって。
耳まで真っ赤にして、告白された時の事を嬉しそうに話す香織ちゃんを見ながら、僕は思わず口に出しそうになったその言葉を、ため息と一緒に心の奥深くにギュッと閉じ込めた。
真相を知っている紫ちゃんだけが、僕にずっと憐れむような視線を向けていた。