chocolate mint
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「裕介。お前さ、青木と一緒に店立ち上げてみないか?」
和希さんから突然そんな言葉を掛けられたのは、僕が『Felitita』に勤めてもうすぐ9年が経とうとしていた3月の事だった。
前々から独立の話は出ていて、ついに実現したんだと思う反面、
「何で僕?有紗さんじゃなくて?」
当然の疑問を口にしてしまった。
独立するならチーフマネージャーの有紗さんが選ばれるのが真っ当な順番なのに。
「だってお前には、ここでもう教える事は何も無いもん」
僕の疑問は和希さんにサラッと返されてしまった。
「青木はさ、シェフとしての腕は一流だけど、経営とか人を使うとか、店全体を統括する能力に欠ける。お前ならその辺もフォローできるし、厨房でもフロアでも、どこでも人手が足りない所に入れる。肩書きはまだマネージャーだけど、将来的には共同経営者を視野に入れた上での青木からのラブコールだよ。ま、経営に携わるって事はリスクも充分にあるから無理にとは言わないけどな」
思いがけない評価に、思わず頬がゆるんでしまう。青木さんにも、そして和希さんにも認めてもらったような気がして嬉しかった。
「ふっ。嬉しそうな顔しやがって。……考えとけよって言うまでもないか。ついでに言うと、お前は俺ほどじゃないけど顔もいいし、笑顔にも華がある。青木がオーナーシェフとして表に出たら、そういう顔目当ての客は呼べないからな」