chocolate mint
和希さんの言葉に思わず苦笑する。
僕よりちょうど10歳年上の青木さんは、20代って言ってもいいくらいに若々しくて、端正な顔立ちで、もの凄くいい男なんだけど……
不満な事は何も無いし不機嫌でもないはずなのに、眉間にいつも皺が寄っている。しかも、真剣になればなるほどその皺はより深くなっていくのだ。
「お前はよくやったよ。俺の『育成コース』を卒業するのはお前が初めてだからな。くくっ……しかしお前ってさ、ほんとにドMだよな」
「和希さんが真性のドSってだけでしょ。……だから、あんまり瀬尾の事いじめないでやってくださいよ。僕が抜けたらあいつがマネージャーになるんでしょ?」
何年か前の僕と同じように、ドSな人材教育に必死に耐えている可哀想な後輩の姿を思い浮かべる。
「バカだなぁ。お前みたいに何をされてもニコニコキラキラしてる奴より、瀬尾みたいにべそかくぐらいに悲しい顔をする奴のほうが苛めがいがあるんだよ」
「……まあ、僕は耐性がありますからね」
紫ちゃんの理不尽な仕打ちに比べたら、和希さんの苛めは『人材教育』という点できっちり筋が通っているので、なんて事はない。
それに『人材教育』に耐え抜いてレベルアップした達成感みたいなものは、『Felitita』じゃなかったら体験できなかったと思う。