chocolate mint
ーーそれから。
紫ちゃんから二人っきりで会えるチャンスをもらった僕は、今思い返しても思わず笑ってしまうくらいに必死だった。
何か言い合いでもしたらしく、会うなり純くんへの愚痴を延々と口にしていた香織ちゃんだったけど、その目はまだ愛情があるんじゃないかと勘違いをしてしまうほど、優しい目をしていた。
だけど、それを見ていても不思議と純くんへの嫉妬は湧いて来なかった。
ーーきっと、香織ちゃんは僕と同じなんだと思う。
突然想いを断ち切られてしまったから、諦めきれない気持ちをどうすることもできずに抱えたまま、次の恋にうまく進むこともできない。
ずっと何年もそんな状態だと心はどんどん麻痺して鈍感になっていくだけなのに。
「そろそろ、解放してあげたら?」
香織ちゃんにそう言いながらも、同じように僕は自分にも言い聞かせていた。
これが、自分にとっては最後のチャンスだから。
もう後悔だけはしたくない。
……ちょっとやり過ぎたかな、と思った時にはもう遅く、香織ちゃんはいきなり積極的になった僕に若干引いていた。
心の中で苦笑いしながら、それでも僕はしあわせだった。
余裕なんて全然無いのに、あるふりをして。
勇気を振り絞って繋いだ手の感触は、ふわりと優しくて、温かくて……
そのまま心ごと蕩けてしまいそうなほど、心地良かったから。