chocolate mint
「……香織ちゃんはさ、慎重なくせにたまに何にも考えずに突っ走るよね。なのに押しには弱いし。ま、そこが危なっかしくて……可愛いとこなんだけど」
「ふーん……ようやく押す気になったんだ。まぁ、あたしがせっかくチャンス作ってやったんだから、潰すようなマネしたら承知しないからね。……あと香織の事、絶対に泣かすんじゃないわよ」
「それはもちろん。感謝してます。ありがと、紫ちゃん」
紫ちゃんが恋人の亘さんと結婚して、ここを出ていく事になった。
二人きりで飲みに行けた事が紫ちゃんが言ってた最後のチャンスだったけど、それから色んな偶然が重なって、僕にとって最初で最後の最大のチャンスがやって来た。
そう思うと、香織ちゃんと同じく僕も突然結婚するって聞かされたし、しかも身内だし、もっと驚いても良かったはずなんだけど……
香織ちゃんと二人で暮らせる嬉しさのほうが勝ってしまった僕は、何も疑問を挟む事無く、気がついたら笑顔で手を叩いて結婚を祝福してしまっていた。
「それよりさ、あんた、あのバカ男はどうするつもりなの?」
「すぐにアパートを引き払って、ここに引っ越しさせるよ」
まずはアイツとの繋がりを断たなくちゃいけない。
たぶん、間違いなくアイツはまだ香織ちゃんに未練があるはずだから。