chocolate mint
志帆さんは、事故に遭ってから自分で運転ができなくなった。
店を空けられない陽介さんと、奏一くんの代わりに通院に付き添うのは、いつも有紗さんの役目だった。
今日もそんな感じで『Milkyway』に立ち寄って、香織ちゃんと紫ちゃんの会話を聞いてしまったんだろう。
香織ちゃんは有紗さんの存在を知らないし、紫ちゃんと有紗さんは……お互い目も合わせないくらい、仲が悪いしね。
「……手伝ってあげようか」
ニイッと、紅い唇を吊り上げるように有紗さんは妖艶に微笑んだ。
何を?と思う間も無く、正面からトンッと僕の胸に飛び込んで来て、細い腕を身体に回してギュッと抱きついてきた。
「……シャツに口紅付けたら、さすがに怒りますからね」
苛立ちが表情に出ないように気を付けながら、やんわりと拒絶の意思を示す。
「フフッ。そんなつまんないドラマみたいな事はしないわよ」
それでも、少しだけ声が固くなってしまったのがバレたのか、クスクスとからかうように笑われてしまった。