chocolate mint

そんな答えの出ないけれど、やりきれないこのもやもやとした感情を、なけなしの理性で蓋をして。


何度も何度も『大丈夫』だと、心の中で繰り返しては、自分自身に虚勢を張って。


……だって、そうでも思っていないと、この黒くて歪んだ醜い感情を、そのまま香織ちゃんにぶつけてしまいそうで怖いんだ。


***

結局、マンションにたどり着いたのは日付が変わる直前だった。

明日は休みだけど、さすがに香織ちゃんは寝てるだろうな。

電気の消えた部屋を見上げたら、なんだか憂鬱な気持ちに拍車がかかったような気がした。

物音を立てないようにそっと玄関を開けて、真っ暗な廊下を進む。

リビングの戸を開けて電気のスイッチに手を伸ばした瞬間、「ううっ……」と暗闇の中からうめき声が聞こえて、ビクッと身体が跳ねてしまった。


「……香織ちゃん、何やってんの?」


思いっきり「びっくりした!」って言っちゃったけど、なるべく平静を装って、声をかけた。


ローテーブルの傍らで香織ちゃんが電気の点いたリビングの眩しさに、目をパチパチさせながら、エヘヘと笑っていた。


「んー……まぶしい……。おかえり。……ねちゃってたみたい」


……だろうね。


分かりやすく、ローテーブルの上に焼酎の瓶が置かれているしね。

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