chocolate mint

やがて、香織ちゃんはうつ向いていた顔を上げて、「ありがとう」と言った。


照れながら言っているのが、こっちから見ても分かるほど耳を真っ赤にして。



……ほんとに、この人は。


思わず、抱き締めた腕に力が入る。


その時、ふと、有紗さんの言葉が耳に甦った。


『……あんたさ、辛くないの?』

『すぐに触れるくらい近い所にいるのに、手を出せないのってツラいんじゃないの?』


…………分かりきった事を聞くなよ。


辛いに決まってる。


一度触れてしまったら押さえられなくなるから、こうして今まで我慢してきたんだ。


……もう、限界なんだよ。



衝動に突き動かされるまま、香織ちゃんを振り向かせようとしたその時ーー


香織ちゃんの指が肩に回した僕の指先を握ってそっと引き離した。


そのまま、香織ちゃんはゆっくりと僕の腕の中から抜け出したかと思ったら、「なぐさめてくれてありがとう!わたし、なんだか眠くなってきちゃったから。このまま寝るね。おやすみっ!」と一気に捲し立てて逃げるように部屋へと戻ってしまった。

< 74 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop