chocolate mint
やがて、香織ちゃんはうつ向いていた顔を上げて、「ありがとう」と言った。
照れながら言っているのが、こっちから見ても分かるほど耳を真っ赤にして。
……ほんとに、この人は。
思わず、抱き締めた腕に力が入る。
その時、ふと、有紗さんの言葉が耳に甦った。
『……あんたさ、辛くないの?』
『すぐに触れるくらい近い所にいるのに、手を出せないのってツラいんじゃないの?』
…………分かりきった事を聞くなよ。
辛いに決まってる。
一度触れてしまったら押さえられなくなるから、こうして今まで我慢してきたんだ。
……もう、限界なんだよ。
衝動に突き動かされるまま、香織ちゃんを振り向かせようとしたその時ーー
香織ちゃんの指が肩に回した僕の指先を握ってそっと引き離した。
そのまま、香織ちゃんはゆっくりと僕の腕の中から抜け出したかと思ったら、「なぐさめてくれてありがとう!わたし、なんだか眠くなってきちゃったから。このまま寝るね。おやすみっ!」と一気に捲し立てて逃げるように部屋へと戻ってしまった。