chocolate mint
「裕介。ほら、あっち」
声を潜めながら、奏一くんがカウンターの方向を指差す。
ここからは、香織ちゃんが座っている席は見えないけど、カウンターの中に立っている陽介さんの姿はよく見える。
その手には、さっき香織ちゃんがオーダーしたヤツのコーヒーと、もう一つホットのコーヒーが乗ったトレーがあった。
陽介さんは、じっと僕に視線を向けていた。そして、目が合うと、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。
黒い笑みを浮かべたままで、陽介さんはカウンターを離れて行った。
そして「はい、お待たせしました」とあまり温度の感じられない声でコーヒーをコトッと置く音がしたかと思ったら、今度はうって変わって「香織ちゃんもどうぞ」と、優しい声で香織ちゃんにコーヒーを勧める陽介さんの声が壁越しに聞こえて来て、思わず奏一くんと顔を見合わせてククッと笑い合った。
たぶん、陽介さんは香織ちゃんにだけとびきりの笑顔を向けて接客をしているに違いない。
僕たちが予想した通りに、ヤツはとたんに不機嫌な口調に変わり、二人の間で交わされる会話も、刺々しいものに変わってしまった。