chocolate mint
ははっ……と自嘲にも似た、乾いた笑いが口元から溢れ落ちた。
「でも、私……亨の浮気だけを責めて……ううん、責める事もしなかった。私がしたのって、逃げた事だけなの。同窓会から逃げて、アパートから逃げて……。亨と向き合う事もしなかったの。自分が傷つかないように。……情けないよ」
「情けなくないよ」
「……えっ?」と言って上を向きかけた香織ちゃんの頭を、手でポンポンと押さえる。
そのままで、下を向いたままで聞いてほしかった。
きっと……今は、僕のほうが情けない顔をしているから。
本当に情けないんだ。香織ちゃんがこんな時にも甘えられないほどに頼りない『僕』という存在が。
甘えるのが下手なのは、分かってる。
だけど、情けないとか、菊井の気持ちに気がつかなかったとか、僕に悪い事をしたとか、そんな事以前に心の奥底に押し込めて蓋をして隠している気持ちがあるはずなのに。