君の勇気を、きっと私は愛し続けてしまうのだろう。【完全版】
―――父親と喧嘩した。


―――喧嘩の内容は、自分の将来のこと。


―――ここ最近、自分がわからない。


『自分のことは自分で決めろ。』


―――そう言ってきた無責任な父。


―――そんな父親に言いたかった。



―――じゃあ、私のことハッキリさせてよ。





「…ミサ?どうしたの?」




―――気がつけば彼のところに

足を運んでいた。

嫌いなはずの君を

私は何で頼ってしまっているのだろう。


「…喧嘩したの。親と。」

「うん。」

「家…帰りたくない。」

「そっか。おいで。」

彼はそう言うと部屋に入れてくれた。



必要最低限の物しかないシンプルな部屋。

白が基調となったその部屋では

黒色の部屋着を着ている彼の存在感は

とても大きい。

「…ごめん。」

「え?」

「迷惑…かけてる。」

「別に良いよ。」

そう言うと暖かい笑みを浮かべた彼。


――この笑顔が少しだけ苦手だった。


「そういえばさ、ミサ。」

「ん?」

「今日、午前中元気なかったけれど、どうしたの?」

驚きのあまり目を見開く。

「気づいて――た――の?」

その問いかけに

「うん。」

と彼は頷くと、私に少し近づいて

胡座をかいた。

近づいたことにより、彼がつけていた

香水の匂いが少しだけ強くなる。

「だって、ずっと一緒にいたから分かるよ。」

その言葉に

「そっか…」

としか返せなかった。


――少しだけショックだった。

なぜなら、昔はこんな感じではなかったから。

きっと、君といるから

こんな風になってしまったんだ。


――誰かにわかるほど感情が

――溢れてしまっている。


「今日、ちびっ子達と遊んだじゃん?」

「うん。」

「2つ結びの女の子、リクエストしてこなかった?」

そう問いかけると少しだけ目線を上に向けて

思い返し始めた彼。

少しして思い出したようで

「ああ。プリンセスのやつ。」

と言った彼に私は頷いた。

「うん。その子にね、言われたの。お姉さん、いつからいたの?って。」

「…。」

彼は返答に困っているようだった。

久しぶりに彼の歪んだ顔を見た気がする。


――言わなければよかったな。


「ごめん、もう気にしてないから。」

私は直ぐ様に彼に言った。

「だからそんな顔、しないでよ。」


――彼の歪んだ顔はもっと苦手だ。


でも、彼は

「そんな顔って…ミサの方がもっと酷い顔してるぞ。」

と私に言った。


―――その言葉に自覚せざるを得なかった。


――本当、君のせい。


――君のせいだから。


これ以上顔を見られたくなくて

俯いていると

フワッと安心できる暖かさに包まれた。

え――――?

突然の出来事に身体を強張らせる。

トクントクンと彼の生きている証が聞こえた。

「何――してるの?」

「抱きしめてるの。」

「なん…で?」

「俺がそうしたいから。」

「…別に良いのに。」

「…離してって言わないってことは、続けて良いんだよな?」

彼に問いかけられて気づく。



――本当だ。

私、離してって言ってない。

私、どんどん―――





「ミサは、どうなってもミサだよ。」

私の背中を優しく叩きながら

言った彼の顔は見えなかった。

――でも、私は彼のおかげで

――落ち着くことができたんだ。



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