黒猫-KURONEKO-《短編》
いつまでもこのままでいたいという気持ちが、
頭の中に横切った自分の緊張感のなさを、
叱咤する。

今はそんな時じゃない。

今度は首から上と手首より先以外を、
オールインワンタイプの黒く薄いタイツに身を包む。

体のラインに忠実に沿うよう作られたタイツは、
アタシの体を黒いシルエットとして、
部屋を照らす横しまの光の中にうかびあがった。

170センチほどの長身で、
全体的に細くひきしまっているが、
女性らしさを象徴するきゅっと締まったウエストに、
もりあがったヒップのラインはもちろん、
豊かすぎるたわわな胸は重力を受けながらも先はつんと上を向き、
開き始めた牡丹のような女の芳香を放っている。

サラシやタイツでは全く隠すことの出来ない大きな胸に、
衝撃を抑え運動効率をあげるための胸当てを装着する。
それでも、
一刻も早く誰かに開放されることを待っているように、
動く度にふるふるとたわみ揺れる。

腰にまわしたウエストポーチの装着具合を確かめると、
最後にレース織りの黒い布で、
頭と口元を包んだ。


準備が整うと、
アタシはロッカーの中にかけた上着のポケットから、
薄い銀色のカードを取り出した。


本部長からセクハラをされている時に掏り替えた、
展示ケースの鍵だ。
ケースはこれと暗証番号がないと開かない。

これは本物だが、
本部長に渡したのも本物だ。


ただそちらにはわずかに細工をして、
パスワードにはエラーを返すようにしている。

いくらミッションの為とは言え、
父親よりも歳上の男に大切な胸をいいようにされたことを思い出して、
アタシは羞恥と嫌悪感と怒りに頬を染めた。

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