黒猫-KURONEKO-《短編》
「今のがファーストキスだったのよ」



かすれた声で口に出した途端に、アタシは涙をこぼした。


箱入り娘として育ち、
過度な男性の視線で男性恐怖症気味ではあったが、
そのうち素敵なカッコイイ男の子と恋をしてと夢見ていた。



それが、
初めて会った人、
しかもいきなり襲ってきた人に奪われるなんて。



ふがいなさと悔しさに肩をふるわせていると、
頬を暖かいものが触れた。


Jが唇と舌で、
あふれ出す涙を丁寧に舐めとっていた。


「J、さん?」


「そんな風に泣かすつもりはなかったんだ。
あまりにも可愛かったくてつい。
すまなかった。」


唇はやさしく頬をつたう感触は心地よく、
いつの間にか抱きしめる腕に身体をゆだねていた。


そのまましばらく静かに見詰め合っていたけれど、
アタシは思い切って瞳を閉じて、
あごをあげて唇を差し出した。




この人なら、いいかもしれない------

そんな直感があった。
黒猫の、ではなくアタシ、典子の直感。

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