キスしたのは最低野郎でした。
「変な人。よく分からない。好きって言って人を家にあげて料理作って勝手に喜んでるのが」
「なんでそんなこと言うんだよ」
さっきとは打って変わって怪訝そうな顔を浮かべる琉輝君。
「だってそうでしょ? 初対面で好きとかよく言えるよね私には無理。本当に『好き』って言葉の意味知ってる? そんな大切な人にしか言わない言葉、無闇に私に吐かないでよ」
睨みつけて強気で言い返す。琉輝君はまた、あの悲しそうな顔をした。私に、向ける。
「そんな顔するの、狡い」
なんともやるせない気持ちを抱いた私はスムージーのコップをカラカラと手の中で躍らせて紛らわす。
「だから、言っただろ。小学生の頃。小学生、全てはそこにあるんだ。でも思い出せないんだろ? なら無理に呼び起こすな。絶対に時は来るから。その時に思い出せばいい。でも思い出したらお前は悲しむと思う。俺はそんなお前見たくねぇ。だから今は初対面ってことにして、一目惚れってことにして仲育んでいこうぜ? な?」
思い出すのを咎め前へ進もうと言う琉輝君。思い出そうにも思い出せない。私は閉された記憶に恐怖を覚え肩を抱く。怖いんだ、私の知らない私の過去が。
「ま、ゆっくりでいいからいつか思い出してほしいってところだな」
弱々しい琉輝君の笑顔に私は少し胸が痛んだ。
「そうだね、善処するようにするよ」
私もちゃんと笑えてるのか分からない顔を琉輝君に見せる。
「はぁ」
考えれば考える度に謎が深まる小学生時代。
思い出せるものなら思い出したいよ。
「だーかーらー!」
琉輝君は私の横へ移動して来たかと思うとまたもや抱き締められた。
「ひゃあ!」
これには慣れない。引き寄せられた瞬間素っ頓狂な声を上げてしまった。
「もーほんと反応可愛いわ惚れる」
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