キスしたのは最低野郎でした。
10分くらいは軽く過ぎてると思う。見渡せば先程の賑わう街とは打って変わって街灯が並ぶだけの静かな夜の道を歩いていた。周りは当然住宅街の為人が居るには居るのだが皆家の中から外へ出ようとはしない。なにせもう夜の9時を回ろうとしているのだから無理もない。
「もう私の家凄く近いんだけど琉輝君の家って何処なの?」
ずっと話もせずに歩いている事を暇と感じた私は琉輝君にどうでもいい話題を振る。
「俺んちか? あれ? 言ってなかったっけ?」
無いです。大丈夫ですか。
こいつは相当記憶力がないらしい。ここまでよく生きてこられたもんだ。
「言ってないよ病院行ったら」
「いや今の心に刺さるんだけど」
そんなの私は知りません。
琉輝君のピュアハートなどお構いなしに言葉を吐いた私に罪悪感というものはなかった。これも成長だねうん。
「ごめんごめん、で何処なの? 私の家の隣とか前とか言ったら私家帰るから」
「おいマジかよ冗談だろ?」
「帰ります」
本当に隣か前だったらよく今まで気付かなかったものだと私は自分を(ある意味)褒めてやりたい。御褒美に私が病院に行こう。
そこからしばし歩き続けると彼は一つの家の前で足を止めた。その家は見た感じ三階建てで屋根は水色に塗られなんだか落ち着きのあるそんな家だった。
…私の家の隣だった。
嘘でしょ? 引っ越してきた人だよね? え?
私は自分の家と琉輝君の家を交互に見やると呆然としてしまった。
「おい大丈夫か? てかマジで隣なんだけどさ来てくれるか?」
「いやさっき行くって言ったから行くけどさ、なんで家が隣なの? 私琉輝君がここに住んでるなんて、今初めて知ったんだけど」
朝登校する時だって夜帰宅する時だって、琉輝君を見たことが無い私には驚きという感情しか込み上げてこなかった。
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