キスしたのは最低野郎でした。
「綺麗な部屋だね」
最初に思った一言を口に出した。
本当に綺麗。うちなんかぐちゃぐちゃで人に見せるなんて恥ずかしいくらいだよ。自室は私が片付けやってるから綺麗だけど。
琉輝君の様子を窺うとキッチンに入りもう夜御飯の準備をしていた。皿を拭いたりフライパンに油を入れたりとやたらに手際が良くて悔しいと思った自分がいた。
なんでも出来る天才か君は。
まさにその通りだった。どんどん料理が食卓に並ぶ。綺麗に彩られたテーブルは少し前とは違いキラキラしていた。
「わぁ…」
食後のデザートを手に持ってにっと笑う彼はやり切ったとでも言うように嬉しそうだった。
私たちは対面してテーブルの椅子に腰を下ろす。
「ほら、食べてみろよ。絶対に美味しいからさ。」
幸せそうだった。彼は。私に夜御飯を作る、そんな事で楽しんでいた。
なんでそんなに楽しそうなの?
そんなことはお構いなしに幸福へ浸っている琉輝君。
もう知らない。
私は彼に言われた通り、料理を口へ運ぶ。
…美味しかった。家で作ってもらうお母さんの料理なんかより遥かに美味しかった。火加減や油の量の調節、食材のバランスが絶妙だからだろう。
「どうだ?」
料理を口に含んだまま静止していた私を覗き込んで琉輝君が問う。自分の料理が美味しくなかったのか不安になったのだろう。
私は慌てて口を動かし喉の奥へと滑らせる。
「凄い美味しいよ! 琉輝君料理も上手なんだね!」
琉輝君に向かって元気良く言った。すると琉輝君はほっと息をつく。そんなに心配ですか。
「だろ!」
いやもう不安だったのバレバレなんですけどなに後で見栄張っちゃってるんですか。
「こんな特技もあるんだ~。 尊敬」
他の料理も物色しながら言葉を返す。実質色々と尊敬したり感心したりしている。
「そ、そうか?」
顔を見れば分かるが恥しそうに頭を掻く男の子の姿があった。
こういう場面は普通に可愛いんだよなぁ。
琉輝君の特性スムージーを飲みながら彼を眺める。やはり嬉しそうに笑っていた。
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