先生、ボクを飼ってよ
そう思って足を踏み出したとき。
微かなピアノの音が聴こえたような気がした。
まさかと思ってドアを開けようとしたけど、やっぱり開かなかった。
……気のせい?
ちゃんと耳を澄ましたら聴こえるかな……?
今度は耳を研ぎ澄まして……
「瑞貴ー! 早く来ないと置いて帰るよー!」
ピアノの音より先に、風香ちゃんの叫び声が耳に届いた。
その方を見ると、曲がり角で大きく手を振っている。
「今行くー」
本当は帰らないで、先生を待ってたいけど……
今日は諦めて帰ろう。
先生だって、忙しいんだろうし。
昇降口を通り、校門まで向かう途中。
今度はしっかりと、先生の演奏が聴こえてきた。
風香ちゃんも、修くんも足を止める。
「綺麗な音……」
「これを森野繭が……?」
その驚き、わかります。
実際、ボクもそうだったし。
でも、音楽室には入らないでほしい。
先生のあの笑顔は、ボクだけが知っておきたいから……