先生、ボクを飼ってよ


そう思って足を踏み出したとき。


微かなピアノの音が聴こえたような気がした。



まさかと思ってドアを開けようとしたけど、やっぱり開かなかった。



……気のせい?



ちゃんと耳を澄ましたら聴こえるかな……?



今度は耳を研ぎ澄まして……



「瑞貴ー! 早く来ないと置いて帰るよー!」



ピアノの音より先に、風香ちゃんの叫び声が耳に届いた。


その方を見ると、曲がり角で大きく手を振っている。



「今行くー」



本当は帰らないで、先生を待ってたいけど……


今日は諦めて帰ろう。


先生だって、忙しいんだろうし。



昇降口を通り、校門まで向かう途中。



今度はしっかりと、先生の演奏が聴こえてきた。


風香ちゃんも、修くんも足を止める。



「綺麗な音……」


「これを森野繭が……?」



その驚き、わかります。


実際、ボクもそうだったし。



でも、音楽室には入らないでほしい。


先生のあの笑顔は、ボクだけが知っておきたいから……

< 23 / 116 >

この作品をシェア

pagetop