狂おしいほど惹かれてく(短編集)
フランシスさんは返事を急かさない。ただその端正な顔をこちらに向け、穏やかな顔でわたしを見つめていた。
聞きたいことはまだあった。例えばいつからこんなわたしを好いてくれていたのか、とか。どんなところを好きになってくれたのか、とか……。
色々あるけれど。でもそんなことよりも、まず、……。
「わたしも、ずっと前から、あなたのことを愛しています」
フランシスさんの美しい瞳を見つめ返してそう答える。「愛しています」なんて言葉を口にしたのは、生まれて初めてだった。
そうしたら、ずっと穏やかだったフランシスさんの表情が固まり、そしてくしゃりと情けなくほころんだ。情けなく、と言っても、元々が超絶美人なのだから、歪んでいたとしても文句なしで美しい。
「今、愛していると、言いました、か……?」
「言いました」
「それでは、ええと……交際ということで……?」
「はい、よろしくお願いします」
言った瞬間、その情けなくも美しい顔がどアップで見えた。そして唇が触れて、優しく、啄むようなキスをされた。
フランシスさんの温かくて大きな手が頬を撫で、そのままこめかみ、後頭部へ移動する。まるで上等な陶器でも扱うみたいに優しく、丁寧に撫でるから、くすぐったいやらもどかしいやら。
くすくす笑ったら唇が離れたけれど、それはほんの一瞬。またすぐに、今度は舌を絡めた濃厚なキス。
外人さんとのキスは初めてだけれど、なんか、こう……上手く表現できないくらい凄かった……。いや、あの……凄かった……。
唇が腫れてしまいそうなくらい濃厚で長いキスからようやく解放されたかと思えば、ぎゅううと力強く抱き締められる。
フランシスさんは幸せそうな声で頻りに何かを言っているけれど、残念、フランス語は分からない。
これを機に、フランス語の勉強をしてみようかな、なんて考えながら、広い背中に腕を回した。