狂おしいほど惹かれてく(短編集)
『問題、英語でスピナッチ、鉄分豊富な野菜は?』
「ほうれん草!」とわたし。
「ほほほほうれん草!」ワンテンポ遅れて豊。
ばちーん、と。間髪入れずに豊の頬をひっ叩く。
「いってぇ!」
すると豊は頬を押さえて、豪快に床に倒れ込んだのだった。
「い、今のは急に始まったから反応できなかったんだ! ノーカンだろ!」
「そうなの? じゃあ気を取り直して」
気を取り直しても、豊はすでに涙目。そんなに強く叩いていないとはいえ、突然のことだったから物凄く動揺しているみたいだ。
『問題! アイ・ラブ・ユー。テニスで0点は?』
「ラブ!」とわたし」
「ララララブ……!」と豊。
『正解は……ラブ!』
ばちーん! 平手。二発目である。
起き上がったばかりの豊は、頬を押さえて床に逆戻り。
「あああ梓! ちょ、ちょっと手加減しろ!」
「してるよ。そんなに強く叩いてないってば」
「じゃあ叩くよーって言ってからやれよ!」
「プレッシャーがどれだけあるかが重要でしょ。わたしが間違えたら豊もすぐさま叩いていいから」
「す、すぐ叩くからな? 手加減できないかもしれないぞ? それでもいいのか?」
「いいよ。プレッシャーは同じ、罰ゲームも同じでなくちゃ」
「はっ、お、おまえは女で俺の彼女だからな。叩く前はちゃんと言ってやるぜ!」
視線がきょろきょろと忙しない。完全に平手二発で動揺しているみたいだ。
テレビでは失格になった芸能人たちが、泥の中にどぼんしている。
こちらはこちらで、いつ平手が飛んでくるかも分からないこのどきどき感。身体の中からふつふつと、何かが湧き上がって来るのが分かった。気分が高揚していると思った。こんな雰囲気の中でやっているのか、芸能人たちは。