狂おしいほど惹かれてく(短編集)
一頻り抱き合ったあと、由加にハンバーグもどきの手直しをしてもらった。
分厚過ぎて中まで火が通らなかったハンバーグは、ちょっとだけ平たくして、再びフライパンへ。欠片を少し食べた由加は、何の味付けもされていないことに気付いて、塩コショウを振りかけていた。ああ、味付け……。完全に忘れていた……。
そして戸棚からデミグラスソースの缶を出して、赤ワインやケチャップと一緒にフライパンへ投入。蓋をして、しばし煮込む。
火加減を確認しなかったせいで外側が焦げ、中まで火が通っていなかったハンバーグを、煮込みハンバーグに作り替えてくれるみたいだ。
完成したデミグラス煮込みハンバーグは、涙が出るほど美味しかった。さすが由加、料理上手な彼女で幸せ、と褒めると「わたしは仕上げをしただけ。作ったのは雅人でしょ」なんて言ってくれたから、また涙が出そうになった。
おれの前で煮込みハンバーグを口に運ぶ由加の目にも、涙が浮かんでいた。
ただしおれの涙とは、明らかに理由が違う。
「あははは! 玉ねぎ! 原型とどめてる!」
みじん切りに挫折してざく切りにした玉ねぎや、分量を気にしなかったせいで大量投入されることになった牛乳やパン粉、味付けさえ忘れ、歪な形をしたハンバーグ。由加はこれを「ずぼらハンバーグ」と名付けて、楽しそうな様子で完食した。
「また作ってね」
「ん、今度はちゃんと練習してくるから」
「練習しなくていいのに。美味しくて面白いなんて一石二鳥な料理は、他では絶対食べられないでしょう」
そんな風に言ってもらえて、嬉しい反面、もっとちゃんとしたものを作ってあげたいと思った。せめてキッチンを惨状にしない料理の仕方を身に付けなければ。
優しい優しいおれの恋人に、もっと喜んでもらうために。
(了)