紳士的上司は愛を紡ぐ

小さなミーティングルームに残された

───彼と、私。


「じゃ、じゃあ私、片付けしていくので!
八王子アナ、今日はお世話になりました。お忙しいでしょうし、先に戻ってて下さい。」

ああ、なんで
こんな言い方しかできないんだっ……!

「お気遣いありがとうございます、
じゃあお先に。」

優雅に笑って部屋を後にする彼に、寂しさが募る。

そう思うなら引き止めろよ、という自己嫌悪を振り払うようにホワイトボードの文字を消していると、

ガチャ っという音と共に、

再び、彼が姿を現した。

嬉しさの余り、頰が緩みそうなのを堪え、ホワイトボードに視線を戻す。

「すみません、忘れ物をしました。」

なんだ、期待した私が愚かだった。

「そうですか、忘れ物って……」

とボードを消し終わり、振り向いた瞬間。
< 112 / 143 >

この作品をシェア

pagetop