紳士的上司は愛を紡ぐ
いや、違う。
これは夢だ。
たとえ、この感覚が現実だとしても、
彼が本当にこうするべきなのは、
─────"大切な人" 。
その存在を思い出した途端、こうして構われる自分がどうしようもなく惨めに感じた。
「…………っ離して、下さい!」
涙声で訴える私に気付いた彼はその大きな瞳を見開き、ゆっくりと身体を離す。
二人の間に12月の空気が流れ込み、その冷たさが私の心に追い討ちをかけた。
「泣くほど、嫌なんですか?」
私のほうが辛いはずなのに、彼は怯えたような声で問う。
何でそんな風に聞くのだろう。泣きたい程辛いのは私だというのに。
狂おしい程、彼を好きになってしまったのは私なのに。