紳士的上司は愛を紡ぐ
だから、正直不安だった。
勝ちたいという気持ちがあっても、
それは決して勝てるという自信ではない。
妙なプレッシャーを背負ったまま、最後の夏が始まろうとしていた。それを自覚したことで、外気の熱気は自身の闘志を燃やすどころか、自分の冷静さを失わせる。
ああ、マズい。開会式に集中しないと。
行進を終え、立ち止まった足下を見ていると、知らない間に思考の沼にハマっていたらしい。
俯いていた視線を上げ、視野を広げる。
その時だった。
「───只今より、開会式を行います。」
熱にうなされた自身と暑い球場に響き渡る、
美しく、清涼な声。
「司会を務めますのは、○○高等学校1年、
二宮 麻里です。宜しくお願い致します。」
モニターに映る凛とした表情に目を奪われる。
おそらく、球児たちの多くが彼女の声に聞き惚れたことだろう。