紳士的上司は愛を紡ぐ

しかも、1年か。
凄いな、こんな大勢の前で堂々振る舞えるなんて大したものだ。

それに比べて3年自身は、キャプテンのくせに余計なプレッシャーに悩まされている。

自虐気味に、モニターから視線を外そうとした直前、あるものが目に入った。

……紙が、震えている?

正しくは紙ではなく、彼女の原稿を持つ手が、尋常じゃないくらいに震えていたのだ。

モニターの端に映るか映らないかの所であり、彼女の表情に夢中になっていると気付かないだろう。だが一度気付いてしまった自身は、その手から目が離せなくなった。

凄まじい手の震えに反して、
彼女の声は極めて明瞭だった。

───"そう見せる努力" 。

自身が苦労していたことを、
同様にやってのける彼女に親近感が湧いた。
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