紳士的上司は愛を紡ぐ
だからと言って、将来の夢がある訳でもない。
進路希望調査の用紙から逃げるように顔を背け、グラウンドに目を向けると、突如脳裏に蘇ったのは、
例の県大会の開会式だった。
あの子は、あれだけ緊張していても、楽しそうだった。きっと、自身にとっての野球のように、アナウンスにもそれだけの魅力があるのだろう。
……もしかすると自身にも、その魅力が分かるのだろうか。
"アナウンサー" という単語が思い浮かぶ。
まぁ、なれる訳ないか。
最初は冗談で、考えたつもりだった。
しかし、関心は収まることなく、その単語が
自身の進路に小さな光を宿した。
"幅広い進路に対応出来るように"と、
国公立大の社会学部に進学したはずの自身は、気付けば並行してアナウンススクールに通い始める。