紳士的上司は愛を紡ぐ

しかも今回ばかりは、才能も無かった。

「八王子、声はデカイんだけどな……」

「アクセントが時々、関西訛り」

数々の駄目出しがあったが、それ以上に「自分の伝え方はこういう印象を受けるんだ」知ることの方が面白かった。

これまで同様、"そう見せる"努力を続け、
アナウンスを楽しんだ結果、
自身は大学卒業後、英東テレビへ入社。

アナウンサーになったのだ。

入社直後、色んな番組で「アナウンサーになろうと思ったきっかけは?」と問われるが、敢えて開会式の話はせず、適当な理由を付けた。

何故だか、"あの子"の事を自分だけの大切な思い出で留めておきたかったのだ。

ただ残念なのが、それだけの思い入れがあっても、4年も経てば、自身の記憶にもうあの子の顔も名前も無かったことだ。

この職業に就く契機をくれた、震える手と綺麗な声を持つ彼女。
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