紳士的上司は愛を紡ぐ

何と返したらいいのか分からず、ただ向き合っていると、八王子アナは少し足を踏み出し、私との距離を縮める。


「……その綺麗な声が、ずっと近くで聞いて見たかった。」

目の前にいる彼が、少しかがんで私の耳元で囁いた。

突然のことに、胸が騒ぎ始める。

今、何と言われたのか……。
思考が上手く働かない。

はっと目を見開いた時には、既に八王子アナはアナウンス室の扉の前にいた。


「じゃあ、収録があるので。
来週から宜しくお願いしますね、二宮アナ。」

いつもと変わらない爽やかな笑顔を向けて、彼は深夜のスタジオへと消えていった。

月明かり照らされたオフィスで、私は原稿を片付け、高鳴る鼓動を抑えることに必死だった。
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