紳士的上司は愛を紡ぐ
「そんなことないです!……私にとって
八王子アナは、不可欠な存在です。」
やはり、アナウンサーとして敵わないんだ。
そう痛感しながら、彼を見る。
それを聞いた八王子アナは、何故かとても気まずいような、複雑な表情をしていた。
「……そう言わせたかったのかもしれません。全く、私は悪い上司だ。」
……どういうことだろう?
彼の発言の意図が読めず、返答に詰まる。
「申し訳ないのですが……それは、一体どういうことでしょうか?」
正直に疑問を投げかけた私に、八王子アナは少し考え込んだ。そして、
「……いや、なんでも。
また来週、宜しくお願いしますね。」
いつものように丁寧に挨拶をした後、忙しい彼は私の前から去っていく。
ただ、一つだけ普段と違って見えたのは、
少しいたずらっぽい笑みを浮かべて楽しそうにスタジオを後にする、彼の横顔だった。
それに違和感を覚えながらも私は、
その表情の方が素敵だなんて、
どこか心惹かれる思いをしていた。