紳士的上司は愛を紡ぐ
「私は……大丈夫です。今後も、宜しくお願い致します。」
得意の笑顔で笑ってみせた。
その直後。
穏やかな空気を纏っていた八王子アナの様子が変わったのが、何故だか分かった。空気を読む癖も、半ば職業柄みたいなものである。
「収録後も、さっきだって、そんな浮かない顔で……大丈夫なわけないでしょう?」
目を細めた彼の囁きと共に、温かい手が私の頰に添えられる。
「……っ!だから、大丈夫ですよ。」
咄嗟に後退り、私は慌てて視線をアナウンス室の周りに向ける。
「今、他には誰も居ませんよ。もし、不安があるなら、話して欲しいです。」
私の視線の意図を読みながら、彼は彷徨った私の視線を再び捕らえた。
この瞳に捕まったら、逃れられないことは前回の一件で分かっている。ただ、彼の隣に立つことで生まれた不安も悔しさも、八王子アナのせいではない。
意地を張っている、私の問題だ。