紳士的上司は愛を紡ぐ
「本当に、何もないんです。私の問題で…。
八王子アナも、ただの部下にここまで心配するくらいなら、もっと多忙なご自身のことを大事になさってください。」
私自身が、八王子アナと共演することに引け目を感じている以上、その張本人に弱音を零すなんてことはしたくない。
いつか必ず自信を持って、どんな視聴者にも一人前のアナウンサーとして認められたい。
私は自身の強い意志を再確認して、彼の瞳を見つめ返した。
「……分かりました。そこまで言うなら仕方ありませんね、無理だけはしないように。」
降参とでも言うように両手を挙げて、八王子アナは私から一歩退いた。
それだけのことなのに、私は初めて彼に納得してもらえたような気がして、何だか嬉しくなってしまった。
こうやって少しずつ、八王子アナの背中を追いかけていくしかない。
そう思って、デスクに向き直った瞬間。
「……でも、」