紳士的上司は愛を紡ぐ
ぐっ、と腕を引かれ、
気付けば、さっき遠退いたはずの八王子アナの顔が、すぐ目の前にある。
「心配するのは部下だから……
だけじゃないって言ったらどうする?」
私が先程向けたであろう挑戦的な視線が返される。突然のことに思考は停止し、勿論返答も出来ない。ただ動いている自覚があるのは、徐々に速まる鼓動だけだ。
「……えっと、その。」
質問の意図を考えながら、無意味な呟きで沈黙を遮ろうとしていると。
「……っ、突然すみません。
質問の答え、また出たら教えて下さい。」
今度はさっきと正反対に、そっと優しく腕を離して、そのままその手をひらひらと振って、彼はアナウンス室から出ていった。
一瞬の出来事に、動揺が抑えられない。
心を鎮めようと、深夜の街に目を向ける。
オフィスの窓に映る私の顔は、暗闇とは対照的な色に染まっていた。