紳士的上司は愛を紡ぐ
取り乱している私とは正反対に、八王子アナは怖いほど落ち着いた表情をしていた。
「困らせてしまって、すみません。
……ただ、貴方の心の片隅にでも、
留めていてほしいと、私が期待したんです。」
伏せ目がちに彼が告げる。その声がいつもよりやけに小さく聞こえ、自分から突き放したはずなのに、無性に近付きたくなった。
「だから、一体"何を"?」
さっきまでの疑問を、今度は私が尋ねる。
「この間の収録で、
私が"貴方に向かって"、伝えたことです。」
これ以上は言いませんが……と付け足し、彼は落としていた視線を上げる。彼の瞳に映る自身は言われた通り、心当たりがあるような無いような複雑な表情をしていた。
そんな表情のまま数秒見つめ合った後、
静寂を破ったのは八王子アナだった。