紳士的上司は愛を紡ぐ
「でも、この間 言ったことも、
さっき突然キスしたことも、俺は……
無かったことになんてさせない。」
───── 今、なんて?
告げられた言葉を反芻している内に、オフィスの廊下から、誰かの話し声が聞こえてきた。
その物音に反応した私は、最低限の荷物を持って、慌てて彼から離れる。
周囲から変に誤解されてしまえば、私の安定生活は消えるのだ。何よりの優先事項が。
「お疲れ様ですっ……お先に失礼します、
これ、ご馳走様でした!」
ミルクティーの空き缶を引っ掴んで、アナウンス室のドアを勢いよく開ける。
閉まる直前、
「お疲れ様です」と聞こえた彼の声があまりにも普段通りで、私はさっきまでの会話が未だに信じられずにいた。